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Official髭男dism
「Universe」インタビュー

Official髭男dism、2021年最新曲は2020年に連載50周年を迎えた「ドラえもん」の記念作品集大成として2021年に公開される「映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021」の主題歌として書き下ろした「Universe」。すでに1月9日から各種サブスクリプションサービスで配信がスタートし、軒並み首位を獲得している。今回はCDリリースのタイミングで、国民的作品への書き下ろしへの想いや、ヒゲダンの新曲としてのトライ、歌詞に込められた背景などをじっくりインタビュー。アレンジや機材話、レコーディングの裏話もたっぷりお届けします。

――まず、映画主題歌のオファーを受けた時の感想を聞かせてください。

藤原:実は「ドラえもんの主題歌やらせてもらえるかも」というのは、結構前からあった話だったんです。だから心の準備をする余裕があったのは良かったことかなと思ってて。決定した時のことでいうと、映画「ドラえもん」の主題歌ってめちゃくちゃ名曲が多いのでーーま、別にそんなこと気にせず思いっきりやりゃいいっていうのはわかってるんだけど、そこに比類ないものを作れたらいいなっていうのはみんな割と思ってたかなと。特に少年期ですよね。超名曲を発祥した主題歌なわけですから、良くも悪くも身の引き締まる思いだった気がします。

――ちなみにみなさんの世代だとドラえもん映画の主題歌というと?

藤原:僕はスキマスイッチの「ボクノート」がドンズバでしたね。

小笹:秦 基博さんの「ひまわりの約束」とか。ツイキャスでカバーしましたね。

藤原:ああ、そんなこともあったね、昔。懐かしいなぁ。

――じゃあ気持ちを作るには十分すぎるぐらい時間はあったと。

藤原:そうですね。でもその準備期間の中で一周回って、やっぱ自分たちが思いっきりやりたいことをやるっていうのが結局一番よねっていう話にはみんなでなったなと思ってて。子ども向けにとかそういうことでは全然なくって、いつも通りの我々でしっかり楽曲に向き合っていくことを大事にしましょうか、というところまで心の準備ができるぐらいの時間があったのはすごいよかったことなのかなと思ってます。

――そしてバンドとしては2021年の第一弾楽曲になるわけで。

藤原:うん。着手し始めたのは去年の10月かな。オンラインライブの後に僕が親知らずを抜いたんです。その痛みでデモの納期が遅れたっていうことをよく覚えてて、確か曲のキャッチボールが始まったのはそのあとのタイミングだったかな。だからメロディのかけらはちょっと前からあったものだったりするんですけど、楽曲としてどんどん形になり始めたのは10月。

――曲の全体像のとっかかりは何でしたか?

藤原:映画を拝見したんですけど、やっぱり胸を打つシーンがすごくいっぱいあって。でもその作品がどうという前に、自分とドラえもんっていうキャラクターや関係性みたいなことをふと考えた時に、幼稚園ぐらいから見るじゃないですか。当たり前に日常にあるぐらい親しんだものではあって。しかも大人になってから見ても胸を打つんだな、このアニメは、すごいなっていうところがあって。なんかドラえもんの主題歌をやるってことが自然と自分にとってはこの曲で歌ってる、昔も今も答えの出ない自分らしさとか、人生ってなんだ?みたいな、そういう大きなテーマについて考え続けていたっていうことを思い返すきっかけになったんです。それが歌詞だったり、音の雰囲気に関してもすごく大きなことだったような気がします。壮大なんだけど温かいっていう音をみんなで目指して作っていってて、それが今回、形にできてると思うんですけど、それはこのドラえもんの主題歌っていうタイアップがきっかけになって出てきたものもあるのかなって、今は客観的に見て思ってます。

――藤原さんの映画の公式コメントに「自己評価が昔から苦手だ」というのがありました。

藤原:ああ、そうですね。書きましたね。ほんとにそういうことをずっと考えて今も暮らしてるなぁと思ってて。でもそうやってわけわからんまま一生懸命、トライ&エラーを繰り返していくっていうことが生きてく上では大事なんだなっていうことがあって。そういう意味ではいい自分もダメな自分も、どっちかよくわからん自分も、その日その日で受け入れながら暮らしていくっていう、自分の人生の中でも一個、肩の力を抜けるようなメッセージが生まれたのかなっていうのはすごく思ってて。ただ、メッセージはメッセージで大事なんだけど、この曲は韻がすごい大事だったので、そことの親和性がしっかり取れてるっていうのも作り手としてはすごく嬉しいところではあります。この曲のメロディをメンバーのみんなに聴いてもらった時に、「これもう英詞でいくか」みたいな話が実はあったぐらいだったんですよ。

――メロディから入るとそうなのかもしれないですね。

藤原:それぐらいサビの《笑って泣いて》のとことか、韻を踏まなきゃ整わないってところがあったので、それができてたっていうのは嬉しいポイントではあります。

――なるほど。

藤原:メロディのかけらが生まれてから完成まで結構長いスパンでやってるから。その間にどうにかこうにか、日本語の歌詞でしっかりメロディが求めてる言葉っていうのをつけるっていうのは時間かかったけど、できてすごいほっとしてる部分は大きいですね。メッセージも大事だけど、歌だなっていうのがあって、それは今回のレコーディングの時にメンバーのみんなに教わったところがありましたね。「歌なんだから、メッセージとして意味がしっかり通ってることだけが正しいわけでもないじゃないか」って話をみんなでして。それが今後の自分の曲作りに関しても勉強になったなと思います。大体、いつもなんか天秤にかけるんですね。メッセージ性としてこっちの言葉を使いたいけどメロディ的にはこの言葉はあんまハマってないとか、いいポイントを探していくっていうのがいつもの作業だったりするんだけど、なんか自粛のせいか僕もすごいクローズドに入っていった部分がやっぱりあったなと思ってて。一人で歌詞書いてると、どんどんメッセージとか、ただ文章としてっていうところで見てしまっていた部分があって。

――推敲する時間も長いし。

藤原:そうですね。だから一回それを「歌だぞ、これは」って考え直すっていうのは、みんなとのセッションの中ですごく学んだところでもあると思っています。

小笹:さとっちゃん以外の3人はどっちかっていうと、メロディやリズム優先の聴き方をそもそもしがちというか。ま、聴き方で言ったら、結構さとっちゃんもそっち側のような気がするけど。

藤原:いや、そうよね。自分のことになると頭が真っ白になるのかな(笑)。

小笹:歌詞を組み立てる作業をしてる最中は全然違う脳みその使い方をするんだろうけど。そもそも僕らは歌詞を文章で捉えてないタイプで、聴き心地優先で聴いてることの方が多い気がするんですけど、ただ、さとっちゃんがメッセージを作りたいという立場に立ったから、バランスをとるためかわかんないんですけど、聴き心地の方で、その感触を見落とさないように見ておこうかな、そういう風には考えたかもしれないですね。

――ところで去年はそれまでに比べると一緒にスタジオに入って考えながら作る機会が減ったと思うんですが。

小笹:ただ、逆に他の人と会う仕事ができなくなったことによって、スタジオにはめちゃめちゃ入ったんですよ、「Universe」作るときも。7日間ぐらいまるっと曲作りに当てるみたいな感じでやってたんです。でも確かに自粛期間が明けて、再開した瞬間、もう話が止まらなかったです(笑)。いまだにずっとヤバいんですよ。作業に入る前のアイドリングトークと終わってからの帰るまでの…。

藤原:エンディングがね。

小笹:長すぎる(笑)。でも、リモートでできないことじゃないとは思うんですけど、なんだか集まらないと弾まないところもあって。

――やはり対面して実機があって、思いついたらでどんどん試せる環境とは違いますよね。

藤原:話が早いなって感じですよね。みんなで集まってれば「ちょっとここ試してみたい」っていうのがあれば、みんなでバッと音出すことができるというのはよかったです。まぁ、だからといってバカみたいに進むか?っていうと、そういうわけでもなかったっちゃなかったですけどね。みんなで作っていくと時間はかかっていくし。でもそのかかっていくのが楽しくていいことなんだなっていうのは改めて、2020年ですごく感じたことな気がします。

――実際に4人で集まってからはどういう風に作っていきました?非常にイントロからワクワクする曲なんですけど。

藤原:イントロは、いつも通りプリプロアレンジの素案を僕が作って、打ち込みで作ったやつをみんなに聴いてもらって、各々考えてきてもらって。

――サウンドのイメージはありましたか?

藤原:サウンドのイメージはドラムの音で結構変わるところだなと思ってて。例えば「I LOVE...」みたいな曲は生のドラムでは出ない音を使って作っていったから、それに乗っかるようにしてシンベが入ってきたりとか、シンセサイザーが入ったりとかっていう感じのアレンジだったと思うんですけど、今回はーーブラックミュージックと十把一絡げに言うのもあれなんですけど、少し温かさというのが欲しかったというところから始まって、徐々に芋づる式に求めてる音が固まっていくみたいな感じでしたね。で、そのつながりの中で、ピアノの音がちょっとクセあるって言ったら言い方悪いですけど、この曲に合うピアノの音は今自分たちが取れ得る選択肢の中にはないなと思って。で、ピアノを買いに行ったのをすごく覚えてますね。

――生ピアノですか?

藤原:そうですね。ならちゃんと一緒に浜松まで。浜松で買ったピアノはボールドウィンってところのピアノなんですけど。で、浜松で買ったのと、あとはピアノ屋さんにムービーを送ってもらうことしかこのご時世できなかったけど、広島のピアノ屋さんのピアノを送っていただいて、それ使ったりってことで。この期間にピアノが2台増えました。

――すごい(笑)。

藤原:でもあれですよ、世間の皆さまが思ってるようなピアノとはタイプが違うんですよね、多分。アップライトやグランドじゃなくて、コンソールピアノ、またはスピネットピアノと呼ばれてるタイプを買ったので、一台何百万のってことではなくて、もっとお求めやすい感じのピアノなんだけど、でもそれにしか出せない質感があって、今回はそれがハマるなと思って。ちょっと学校のピアノっぽいなっていうか。

――ちなみにインスタライブの時に藤原さんが弾いていた白いピアノ?

藤原:あれが広島から送ってくれたピアノで。あれが楽曲の結構、真ん中にいる音で、もう一台、茶色いピアノがあるんですけど、そっちは一番と二番の間奏にちょっと入ってたりしてます。

――イントロを聴いた時にちょっとラグタイムっぽい印象があったんですよ。

藤原:ああ、そうですよね、確かに。リッチでクリアな音はいっぱい選択肢あるし、そういうのは今までもやってきてるけど、今回はレンジが狭くてもいいのでもうちょっとだけ頑固な音でいて欲しかったなと思ってて。その分どうしてもパワーはちょっとない楽器にはなってくるので、どうやって魅力をしっかり伝えられるだろうか、みたいな話は結構エンジニアさんやみんなと話しながら作って行ったのは覚えてますね。

――皆さんは藤原さんのデモを聴いた時にどういう演奏やアレンジで曲に色をつけていこうと思いましたか?

松浦:ドラムに関してはもうリズムはプリプロの時点で割とこういうイメージっていうのは決まってて。それに肉付けして行くというか、みんなで「ここ、こうしたらいいね」みたいに足して行った感じで、あとは音作りで、「スモーキーなのがいいね」っていうのをその時期に話してたんです。でも古いっていう感じでもなく、この曲だとあったかみやオープンさはあるんだけど締まってるというか。ハイハットとかスネアは特に。すごくタイトじゃないけどタイトに聴こえる柔らかさのバランスを意識して音作りはしたような感じはします。

藤原:シンバルの切れ際がすごいこの曲は大事だなってみんなで話して。それが(生のシンバルを)ツルッと録らずに打ち込むっていう選択肢をとるに至った一番大きなファクターだったかなと思って。パッドを押して離した瞬間にシンバルの音が消えるっていうのがやっぱ大事で。

――ああ、確かに残響ないですもんね。

松浦:独特だよね(笑)。

藤原:離した瞬間止まるって、人力で出せるものではなくて。音とグルーヴ感は生っぽいけど、そういうところだけは生のドラムにはやれないことをやろうみたいな感じでやりましたね。だからちゃんまつに音を作ってもらって、みんなでああだこうだ言いながら録った単発の音を使ってドラムパターンを構築していく、そういう作り方になったんです。

松浦:ビンテージ楽器使ったけど、今のテクノロジーも入ってるっていう(笑)。

藤原:でもあんまり打ち込み感がないのはすごい大事だった気はしてます。多分、言わなわからんぐらいの感じになってると思うので、それだけディティールにはこだわりながらビートメイクしていったな。

松浦:ゴーストノートとかも細かいとこまで素材録って使って、強弱も変えたよね。

藤原:そうそう。

――それが知ってるようで実は聴いたことないサウンドになってるんだろうなと思います。そし楢﨑さんのベースラインや小笹さんのワカチコカッティングなども印象的です。

楢﨑:ありがとござーまーす(笑)。

一同:ははは。

楢﨑:ベースは完全にあれでしたね、Vulfpeckのジョー・ダードに憧れた楢﨑少年が、その憧れをぶつける場を見つけたぞみたいな感じでしたね(笑)。

――いいお題を見つけたぞと。

楢﨑:もともとめっちゃ好きだったんですけど、この曲、絶対、ジョー・ダード先生聴いたらヤバいぞと思って。

小笹:かっこいいけん、聴いてくれるよ、多分。

楢﨑:で、この感覚どうやって出したらいいのかなと思って、デモ聴いてVulfpeck聴いてって交互にやりながら。

――小笹さんはいかがでしたか?

小笹:ヴァースによって役割が違ってて、Bメロとかはオブリガードをやる感じで、サビになったら今度はリズムに行ってみたいな。それがみんなの間を縫う接着剤みたいなことをやったかなという感じがしていて、結構こういうギターが一番楽しいかもしれないです。こう、みんなの間をうまく繋いだぞみたいなやつが。ベースはほんとにかっこよかったんで、一瞬だけユニゾンしようかなと思って録って、フレーズ変わって。ベースのフレーズは多分、何回も変わったんですけど、そういうのが変わるごとにギターももう一回録り直すみたいなことをやって。ほんとみんなに合わせて、いい感じにバトンを渡せたかなと思います。ちょっと地味っちゃ地味なんですけど、めっちゃ楽しいギターです。

松浦:Bメロのギター、めちゃめちゃ好きなんだよな。

小笹:Bメロ、いいね。さとっちゃんが素案を作ってきてくれたやつで、最終的に2番で二人のアイデアを集結させて。2番でちょっとだけフレーズが変わる、それがすごい好き(笑)。

藤原:あれいいよね。

小笹:ただ、2番のAメロに命かけすぎですよね(笑)。

藤原:確かにねぇ。

――2番前の間奏のアレンジも最高ですね。

小笹:ありがとうございます。テープストップ。

藤原:あれ、スタッフの方がこう、音源持ってきて「これ音飛びしてるわけじゃないんですよね?」って。

小笹:ははは!

藤原:「ほんと大丈夫ですよね?」って、たまに確認されるみたいな話聞きました。

――細かいアイディアが最強です。ブラス・アレンジも毎回進化していきますね。

小笹:ブラスアレンジにおいて、ただの3管じゃなくて、今回は特殊な編成のやつしか録ってない。なんだっけ?トランペットと…。

藤原:トランペット、フリューゲルホルン、フリューガーボーン。パリパリしたところじゃなくて、あったかいのが欲しいんだって話をしてて。なので、毎度お馴染みになっているあつきさん(湯本淳希)というプレーヤーの方に来てもらって、使う楽器とか相談さしてもらいながらやったんですけど、すごいいっぱい種類があって面白かったですね。

――ブラスのアレンジもいわゆるブラストラックス的なものだけじゃなくなってきた感じがするし。

藤原:ブラストラックスね。今思うとすごい、僕もハマってたなと。あれのかっこよさもめちゃくちゃあって、でもどうしてもそこの主権はブラスになってくるんですけど、「Universe」に関しては主権をずっとこう、誰かが持ってないっていうことだと思ってて。イントロとか結構ピアノが目立ってますけど、管も含めて全員のパートで一個の楽曲の主権を作ってる感じっていうのが、この曲のサウンド面の魅力なんじゃないかなと僕は今思ってます。

――少しオーケストラっぽい作り方というか。

藤原:あ、でも構築的ではあるかもしれませんね。ここはこういう風にみんなでユニゾンしてとか、ここはこういう風にしてとか、そういうのは結構あった気がしていますね。でも楽曲によっては、この曲はギターが主役だ、行けー!っていうアレンジをするときももちろんあるけど、この楽曲はみんなで作っていってる中核部分っていうのが似合っているんじゃないかなっていうのはありますね。多分、あったかい質感とかもみんなの持ち寄ったあったかさが一個ずつこう合わさってそうなってるのかなと思います。

――歌詞のお話をもう少し聞かせてください。ドラえもんの今回ののストーリーにももちろん繋がると思うんですけど、2番の歌詞に割と闘う相手だったり“侵略者”というワードが出てきたりしますね。

藤原:これ、すごい難しいことだと思うんですけど、結局、「将来どうすんべ」みたいなことって昔から考えるけど、僕はこういう道に進めればいいって決め切れたことは基本的になくって。決めきらん自分が悪いんかもしれんけど、結構、「あなたの人生はこうあるべきなんじゃないか」ということをーーもちろん家族はそういうことは言ってくれて当然だと思うんだけど、普通に生きてて人生論とか人生観とか、なんか人からもらったものが重すぎる時があって。「あたし、そんなにストイックに生きられません」というか(笑)。できないことが悪いことみたいになって行くのもなんか違うんじゃないかなっていうのがあって。だから、ハナから自分のことをそんな崇高な人間だと思わない方がいいのかもしれないし、でも、そうでもないのかもしれないし、とか。その日はそれで納得しても次の日には全然そんなこと賛同できかねます、みたいな感じに自分の心の中がなったりするから、自分で考えるだけでもこんだけ悩む中で、人から言われたことっていうのは時にめちゃくちゃ重荷だなと。

――確かに。

藤原:めっちゃ例えばですよ、時間もったいないっていう人生観、あるとするじゃないですか。例えば移動の時間、もう自己啓発のために使いたいからタクシーを使いますよって人とか、自分のやりたいことを邪魔する人とは関わらない方がいいですよとか、その人にとっては大正義だと思うし、別にそれはそれで自分の生き方だったらいいと思うんですけど、それが全人類にとって正しいわけじゃないっていう。無駄な時間が必要な時だってあるし、誰かが無駄と切り捨てたものの中にも自分の心を救うものが入ってる時がやっぱりあるし。そういうのがなんか引っかかるなっていうのはこの時代に思ったことかもしれませんね。結局、自粛もそうじゃないですか。どのぐらいやるのかって、人それぞれの裁量にまかせられてるとこがあって、でもその中で感染者を抑えていきましょうねって言って、明確な「こうしろ」ってことがないけど、いや、そこはちゃんとしろよとか、このぐらいはいいんじゃない、とか、結局みんな裁量の部分が結構あって。それを押し付けあって指差して批判していくことになんの意味があるの?っていうのはすごくあって。それはもちろん、人に迷惑をかけないっていうのはすごく大事だと思うんですけど、あまりにチェーンをかけすぎてる、必要以上に。そういう時がやっぱりあるなと思ってて、それがすごい2番の歌詞に出てきてるなっていうのは思いました。

――そうですね。人の言動で身動きが取れなくなっている。

藤原:でもいろいろ思い出しました。昔、このヒゲダンが上京してすぐの頃のこととか。全然そんな右も左もわかんない時にやっぱ「このバンドはこうだよ」「こういう形でやってくべきだよ」っていうことをメンバーじゃない誰かが主権を持って言ってるっていう形?その時はわかんなかったけど、やっぱもうまさに《主役を奪われた途切れた劇のように》っていう、その歌詞が表しているような、結局誰がこのバンドのその本体なの?って考えた時にちょっとあまりにも人の言うことに翻弄されすぎてねえか?って、今振り返ると。その翻弄によって、見えてきた部分もいっぱいあるからそれは無駄じゃなかったと思うんですけども、なんかそういうところも思い出しながら、作ってったなっていうのはありましたね。でも、そういうことを感じながらやってきて、今、最高のチームでいいコンディションでバンドをやれてるっていう幸せを噛み締めながらというところもあって。だから自分たちの歩みみたいなものがこの歌詞の中に出てきてるし、「あ、自分の価値観はこういう風に吸収されて行ったんだな」ってことを見返すとすごく知ることができたなって。なんか自分の心のもやもやを紙に書き出すといいって言うじゃないですか。割にそれに近いことを結構、作詞の段階でやってたのかもしれませんね。

――そこから、あくまでも歌だからという最終形にたどり着いたわけですね。話が変わるんですが、ジャケットのアートワークが最高で。

藤原:ありがとうございます。

――こんなドラえもんカラーってあるの?っていう。

楢﨑:めちゃめちゃ身近にあったんですよ、あれ(笑)。

藤原:これ、キューボックス(※プレイヤーそれぞれが自分が演奏しやすいモニターバランスを作るための機材)っていって、レコーディングの時に一番、身近にあるものなんで、あれがジャケットになってるっていうのは結構嬉しい思いありますよね。

楢﨑:相棒が(笑)。

――最高ですね。こんな色合いがあるんだと思って。

小笹:奇跡ですね。

――これをアートワークに選ぶところもこの曲の完成の仕方に関係がある感じがして。

楢﨑:でもそれこそ「アートワークどうする?」って話をスタジオ内でやってて。「あぁ、見つけたー!」みたいな(笑)。「ちょっと待って!」みたいな感じで。

藤原・小笹・松浦:ははは!

――そしてフィジカルが出るタイミングでのインタビューなのでお聞きしたいんですが、DVD、Blu-ray版にはオンラインライブの映像がつきますね。改めて発見したこととかありますか?

藤原:あー、いいバンドだなと思いました。うん。自分たちのことながら(笑)、すごいいいバンドにおらせてもらっとるなと思ったし、サポートメンバーも総集結してて。あの感じはすごい素敵でしたね。

楢﨑:オープニング映像の時にスタッフの手元とかが映ってて、顔とかはわからないようにしてるんですけど、表にいなくてもあの人たちの仕事が常に全編ずっと映し出されてるっていうのがなんか感動しちゃいましたね。俺らのバンド見てもらってるけど、全体であの作品は出来上がってて、その人たちの手を最初に映してるっていうのが、なんかアチキはグッときましたね(笑)。

――(笑)。まだまだ激動の時代が続きそうですが、ヒゲダンとしては2021年をどんな1年にしていきたいと考えていますか?

藤原:どうでしょうか。ライブやりたいですね!もちろん状況次第ですけどね。お客さんに危険がおよぶ要素がちょっとでもあるというか、対策しきれないなと思ったらやるべきじゃないと思うんですけど、やっぱライブっていうものがいかに自分らの人生の中の大事な部分だったかってことを2020年で思い知ったところあったんで、今年はもういいっていうぐらい、ツアー回れたら幸せだなと思ってて。そういう年になってくれることを願ってます。

ライター:石角友香